Agroforestry
本事業では、経済的にも環境的にも持続可能な農業による収入向上を目指し、遷移型アグロフォレスリーの普及を行っています。
遷移型アグロフォレスリーは、二次林の植物遷移を模倣して有用植物の時系列栽培を行います。
いいかえれば、いったん伐採された森に草が生え、パイオニア樹種が生え、長い年月をかけて次第に自然の森に近い状態に戻っていく過程を経済的な価値のある多種の植物で模倣していく方法です。
様々な有用植物とそれらと相互に支えあう微生物、昆虫なども含めた森林生態系を生かし、1箇所の土地で多種多様な農作物栽培を行うことで、持続可能で安定した収入が見込まれます。アマゾンに適した遷移型アグロフォレストリーは、東部アマゾンのトメアスーに移住した日系移民の人々が洗練させてきた農法で、具体的には以下のような作物・樹種を適切に組み合わせて植えていきます。
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植え付け後1年程度のうちに収穫のある短期作物
(キャッサバ芋、トウモロコシ、陸稲、豆類、瓜類等)
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1~2年目から数年間収穫のあるコショウやパッションフルーツなどの
蔓性木本作物、バナナ等
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数年で収穫の始まる果樹
(カカオ、クプアスー、アサイー等)
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8年前後で非木材林産物の収穫の始まる多目的高木
(パラゴム、アンジローバ、ブラジルナッツ等)
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7年~数十年で伐採できる材木用高木
(パリカー、アンジェリン、チーク、マホガニー等)
また、森林生態系や植物間の相互作用等を活かしたこの農法では、以下のような利点があると考えられています。
社会経済面
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長期間継続的に同じ土地から収入が得られ、定着農業が可能(焼畑移動耕作が不要)。
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焼畑に比べ単位面積あたりの収入が高い。
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牧畜に比べ単位面積あたりの収入が高い。
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牧畜に比べ雇用吸収力が高い。
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モノカルチャーに比べ農作物価格相場変動の影響を受けにくい。(ある作物の相場が下がっても他の作物によりカバーできる。)
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洪水や干ばつなどの気候イベントへのダメージを軽減させる。
自然資源面
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土壌やバイオマスのCO2貯留量を増やす。
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水分や栄養の利用効率を改善する。
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作物栽培に好条件の微気候を作り出す。
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温実効果ガス(CO2 、NH4、N2Oなど)の排出を抑制する。
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生物的窒素固定量を増やし、肥料の必要性を軽減する。
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モノカルチャー(単一作物栽培)に比べ病害虫被害を受けにくいため農薬の使用量を減らせる。
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土壌構造や保水能力が向上し、土壌流出を減らす。
本事業では、市の農業局やブラジル農業省カカオ院と連携し、また、遷移型アグロフォレスリーを開発・普及したトメアスーの篤農家の方々、東京農工大学等の協力を受けながら、事業地の農民達と共に2008年より活動しています。
失敗した場合に使える蓄えを持っていない多くの農民は、概して新しい技術の導入には慎重であり、活動開始当初はごく一部の農民が興味を持ってくれるだけでした。しかし地元の人々と信頼関係を築きながら活動する中で次第に活動の効果が現れてきました。「人間が苗を育てて木を植える」という概念のほとんどなかった地域において、人々の意識が変化し、苗を作って植えることが一般的になってきたのです。その中で次第にアグロフォレストリー農場が生まれ、収入を向上させ、生活環境が改善するケースが生まれてきています。